- さいしょに
弊社は2017年に設立された会社で現在第7期目となりますが、ここ6年間でゲームイラストの制作内容が大きく変わってきていると肌で感じています。
この記事は、実際の弊社の売上データをすべて集計してジャンルごとに区別し、それぞれの変遷を追いかけたものとなります。
お読みいただく皆様にとって、少しでも実りを残せる内容となっておりましたら幸いです。
- 2022年のまとめ
まずは、昨年2022年単体でイラスト制作の売上データを見ていければと思います。全体の売上を100%として、比率をグラフにしました。
三面図(3Dモデルの展開図、衣装デザイン等)のデザインが25%を占め、次に萌え / 美麗(美少女イラスト)、乙女(カッコいい男性のイラスト)、IP版権(アニメや漫画をベースにしたイラスト)と大きなシェアが続きます。
後ほど実際のイラストを添えつつ具体例を挙げていきますが、三面図のご依頼は基本的にIP(版権)のデザインがほとんどとなりますため、つまりは「かわいい女の子のイラスト・漫画やアニメをベースにしたデザイン」が2022年の7割程度とお考えください。
では、この6年間の推移はどうだったのか。
所感も踏まえつつ、全体の売上から見たシェア率の高い順に書いていければと思います。
※読みやすさを考慮し、クライアント名は敬称を略しております。あらかじめご了承ください。
- 三面図 イラスト(二面図・衣装・3D用デザイン)
全イラストジャンルの中で、売上・シェア率ともに最も上昇を見せています。
三面図はキャラクターデザインのひとつではありますが、あまり表には出てこないゲームの内部データ的なものと言えます。弊社でお受けしているのは、主に3Dモデル用の衣装デザインや武器・防具デザインの制作となります。制作料として見た場合、最後まで描ききらないラフ状態での納品が多く1点1点はそれほど高価となりませんが、まとめてご依頼をいただくため全体的に売上が伸びた結果となりました。
日増しに高性能となるスマートフォンは最先端の携帯型ゲーム機であり、かつてのようにイラストではなくハイポリゴン(高グラフィック)の3Dモデルが多用されるようになってきています。それはキャラクターイラスト自体における依頼減少の一因となっている一方で、その3Dのもととなるデザインの増加に繋がっています。
具体例として、弊社でお受けしているタイトルにはセガ社の『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』があります。先日ニュースにもなりましたが、通称『プロセカ』は中高生から絶大な人気を誇るゲームで、こちらを書いている現在日本のモバイル音楽・リズムゲームジャンルで売上1位の記録を誇っています。
- 萌え / 美麗 イラスト
「萌え / 美麗」イラストは、売上・シェア率ともに常に高水準をマークしています。先述のように、いわゆる「かわいい女の子」の制作が大半を占め、表情やポーズの変化もありセットでの制作料は全体的に高くなる傾向にあります。 下記は、ミリアッシュの2023年兎年用の年賀状イラストです。イラストレーターのLagさんにお描きいただきました。
こちらのイラストのように、背景もあり、描画内容がリッチになっていくとそれだけ制作料は上がっていきますが、背景のないキャラクターが立っているイラスト(通称「立ち絵」)では制作料はやや控えめになっていきます。
- 乙女系イラスト
三面図デザインと近しく、乙女系イラストのご依頼も年々増えてきています。
美少女ゲームが「男性が女性に恋する」なら、乙女系ゲーム(女性向け)はその逆で「女性が男性に恋する」ゲームを指します。また、厳密には異なるのですが、弊社では管理上の都合でTL(ティーンズラブ)やBL(ボーイズラブ)のイラストも乙女系ジャンルとして計上しています。
著名なイラストレーターや漫画家の方が先んじてキャラクターをデザインし、それをベースにした制作となることが多く、「似せて・寄せて」描く高い技量が必要となります。
先ほど三面図デザインの部分でも述べたように、性能の上がったスマートフォンが携帯ゲーム機の役割を果たしたことで、女性に人気のコンテンツが生まれる土壌が整い、その規模は確実に広がってきています。
- IP(版権)イラスト
「IP(版権)」 イラストも、売上・シェア率ともに高い状況が続いています。
IPは「知的財産」がその直訳となりますが、エンタメ業界ではいわゆる漫画やアニメといったコンテンツを広義で指しているとお考えください。乙女系のイラスト制作と同じく既存のキャラクターデザインに「似せて・寄せて」描く性質上、アニメーターの技能に近い特殊なスキルが求められます。一方で、独創性や創造性といった作家性に封をした制作となるため、弊社からイラストレーターさんへご依頼する際は失礼のないよう最大限の礼儀と敬意に則りご連絡差し上げています。
制作料としては、「萌え/美麗」と同様に密度の高い全身像や背景込みのイラストとなるため、高くなることがほとんどです。
Netflixといった動画系サブスクリプションサービスの隆盛から見ても、各企業は世界中の皆に広く長く親しまれるIP(版権)の創出に熱を注いでおり、IP(版権)の絶対数は二次関数のように増えていくことが予想されます。それに伴い、メディアミックスとして展開されていくゲームも多く、付随してIP(版権)イラストの需要も増していくでしょう。
- 背景イラスト
おしなべてずっと需要のあるジャンルであり、今後もその状況が続く見込みです。ゲームコンテンツの格を決めるのはキャラクターでなく背景美術、という話もあるほどで、ソーシャル(スマートフォンでプレイする)ゲームの開発段階においてもリリース後の運営段階においても必要不可欠なイラストとなります。挙例させていただくと、マーベラス社の『一騎当千エクストラバースト』は、弊社で長いこと制作をお受けしているタイトルとなります。
また、弊社の特色のひとつとして、海外のイラストレーターさんとも協力関係を築かせていただいているのですが、主に背景イラストの制作でお世話になることが多いです(もちろん、国内のイラストレーターさんにもたくさん背景イラストをお描きいただいています)。
- デフォルメイラスト
ミニキャラやチビキャラ、またSDキャラとも呼ばれている2~4頭身ほどに小さくデフォルメされたイラストです。必然的に描画要素は少なくなり制作料も控えめとなりますが、その分ご依頼のある際はたくさんいただけることが多いです。グラフの長短は、需要というよりはそのタイミングによるものとお考えください。下記は、ライフマップ社の運営する高校生のための進路検索サービス「コレカラ進路.JP」内コンテンツ「パーソナライズ進路診断」のマスコットキャラクターです。
また弊社では、クライアントワークとしてイラスト制作をお受けすると同時に、企業協賛(スポンサーシップ)の一環で制作させていただくこともあります。昨年は、かの有名な戦国武将石田三成一族の菩提寺である京都妙心寺壽聖院様のクラウドファンディングへの協賛として、マスコットキャラクター「ひがなりくん」を制作致しました。
- アイテムイラスト
デフォルメイラストと似て、制作料は低めですがご相談いただく際はボリュームがあるジャンルとなります(グラフの変動もタイミングによるものです)。ソーシャルゲームやコンシューマゲームはもとより、トレーディングカードゲームでのご相談もあります。
アイテムとひとつに言っても、上記のように高密度な描き込みのイラストもあれば、複数の平行線を描くことで陰影を表現するハッチング風のイラストもあったり、さらには魔法の演出だけを描写するイラストもあったりと、求められるテイストはかなり細分化されています。
- 厚塗りイラスト
往年のトレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』のように、「美麗 / 萌え」イラストよりもさらに塗り込むことで油絵のような質感を持ったイラストを弊社では「厚塗り」と表現しています。すべてのジャンルの中で「減少した」と記せるのは厚塗りイラストとなります。
以前は海外展開を視野に入れたゲームにてご相談をいただくことも多かったのですが、IP(版権)をベースとしたゲームの需要が高まっていくにつれ、また日本のアニメや漫画が海外にて人気を博すにつれ、ご相談も海外コンテンツを基準とした厚塗りイラストからIP(版権)イラストへと変化したかたちです。
そのような状況ではあるのですが、戦国や三国志の武将キャラクターが登場するシミュレーションゲーム等でのご依頼は依然としてあり、またその描画密度から制作料は最高峰となります。背景イラストと同じく海外イラストレーターの方が特に得意とされており、弊社では実のところ、甲冑に身を包んだ戦国武将をタイのイラストレーターさんに描いてもらっています。
- スタンプイラスト
弊社では「LINE」を始めとしたコミュニケーションアプリ内のスタンプイラストも制作しています。一時期のブームほどではなくともありませんが、ファン同士によるコミュニケーション増進を目的としてスタンプを制作・発売するケースがあります。
先に例示した京都妙心寺壽聖院様のマスコットキャラクター「ひがなりくん」は、制作後に住職西田さんの想いあってLINE用スタンプとなりました。お寺の愛猫「彼岸」と石田三成をモチーフとしたひがなりくんは、石田三成を慕って壽聖院を訪れるファンの皆さんにとっての一服の清涼剤として活躍しています。
- おわりに
まとめると、「かわいい女の子」のイラストと、既存のキャラクターデザインに「似せて・寄せて」描くイラストが、この6年間ずっと高いシェア率で推移しています。また、3Dモデルのもととなる衣装デザイン等の三面図イラストと、カッコいい男性を描く乙女系イラストが飛躍的に増えてきています。
イラスト自体の需要は今後どうなるか、という点については、なんとなく「減っていく」というご意見の方が多いように感じていますが、弊社では「増えていく」と考えております。
データの引用は省略致しますが、ゲーム業界は目下成長中の市場であり、ゲーム機やスマートフォン向けを問わず以降伸び続けると予測されています。また、ゲーム業界の誕生から40年が経過し世代がひとつ繰り上がったことでゲームへの抵抗感は日々減少しつつあり、ゆえにゲーム風のイラストに対しても世の中はニュートラルに受け入れるようになり、結果として街や電車の広告等でイラストが用いられることも増えてきています。
さらに付け加えるなら、「需要を増やしていく」ことが弊社のようなイラスト制作会社のまさに存在理由であり、人間が字を書くよりも先に絵を描くように、「描きたい、描かれたものを見たい」という欲は根源的で原始的で、ゆえに強靭であると信じています。
しかし、情熱だけでは力不足だとも思っています。情理という言葉の通り、情だけでなく理も必要です。その理をわずかながらでも補填すべく、弊社の数字を拾い上げ、こうして公開させていただきました。
お読みくださり、誠にありがとうございました。