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札幌の専門学校で回答した「イラスト」に関する16の質問

2023年2月16日(木)から17日(金)の間で、計3校を訪れエンタメ業界(ゲーム・漫画・イラスト)の講義をさせていただきました。その中で学生の皆さんからいただいた質問に対する回答を、できるだけその時の熱意をこめて改めてこちらに掲載させていただきます。

2023年3月1日

記事に興味を持ってくださりありがとうございます。

東京都府中のイラスト・ゲームイラスト制作会社ミリアッシュの代表をしている竹谷彰人(たけやあきと)と申します。

去る2月16日から17日にかけ、札幌の専門学校をまわり講義をして参りました。ゲーム開発会社サイバーコネクトツー松山洋社長と、デジタルコミックエージェンシーのナンバーナイン小林琢磨社長と一緒に、それぞれゲーム・漫画(ウェブトゥーン)・イラストの切り口で話し、エンタメ業界を包括的に学んでもらおうといった3社合同での企画、その名も「学生ミライ会議」です。

9月に福岡で第1回となる学生ミライ会議を開き、次は11月に大坂、そして今回はその第3回となります。

この記事では、計4校の学生の皆様よりいただいた質問に対する回答を、なるべく当時の熱量を再現しつつ、文章にまとめている現時点での考えを追加し書いております。近しい質問もありますが、それだけ若い世代の関心が強いことと捉え、まとめずに回答していきます。

第1回福岡編はこちらから、第2回大阪編はこちらからお読みいただけます。

 

 

まずなによりも画力です。その上でとなりますと、「なにが好きか」、「どういうイラストを描きたいか」ということが伝わってくる構成のポートフォリオだと、お仕事をご依頼する際とても参考になります。たとえば、私の例で恐縮ですが、ひとを大切にして、好きなことを好きと言うために会社を作りました。その思いをnoteというブログサービスに書いたところ、お読みくださった方から「会ってお話がしたい」、「仕事を頼むならミリアッシュさんにと思っていました」、「スポンサーになりたい」、「そろそろ現役を引退するのでその後は竹谷さんに社長をやってもらいたい」というお話が来ました。何事にも丁寧に誠実に向き合うのは、いつか吹く追い風のためです。自分が好きで大切にしたいことをイラストに描いて伝えることが、大切だと思います。

なかなか「ここです!」と数値等でお伝えすることができなくて恐縮なのですが、現在のゲームイラスト制作ではIP(版権)イラストのご相談が日に日に増えてきています。そのケースで考えると、どれだけ既存のキャラクターデザインに似せて描けるかということになるのですが、言い換えると「見分けがつかないほど同じクオリティのイラストを描く」ことがIPイラスト制作では必要なスキルとなります。女性キャラクターのイラストであれば、目の光の入れ方からリップの色合いまで、細やかに観察し汲み取る力が求められます。

お金と契約に関する知識を学ばれるべきかと思います。社会に出てから何十年と経っている私たちのような年齢のひとたちでも、お金にだらしなかったり後出しで条件を変えてきたりするひとが決して少なくありません。いろはのいとして、まずは口約束にせず、メールなりDMなりでデータにやり取りを残しておくことから始めましょう。逆に言うと、データを残さない依頼人には一際気をつけましょう。知人だから、というのは信用の理由にはなりません。遊ぶ時は楽しくとも、いざビジネスとなると波長は大体違いますし、友達だからと甘えを許した仕事の結果、その関係が破局へと向かったケースも多く知っています。あとこれは持論ですが、これほどチャットツール等が発達した世界ですぐに通話や打ち合わせを求めてくるひとは相手の時間をなんとも思っていないので、そっと距離を置いたほうが良いと思います。

ゲームクリエイターブランドという「ゲームクリエイターをグッズにしていく」事業を展開しているのですが、もっと伸ばしていかねばと思います。また、昨年からカリキュラムの制作等にも携わっており、もっと教育の領域に入り、向き合っていきたいなと考えています。双方の共通事項として、どちらも会社設立時から練っていた策ではなく、働くなかで頂戴したご縁から生まれたものです。そのため今年も来年も、会社とこの命が続く限り、人々との出会いを通じて新しい仕事を見つけていきたいと思っています。

 

 

Q1と同じく、画力が最優先です。自分の「好き」が見るひとへと伝わるような構成にしてほしいと思いつつ、一方で色々なものにアンテナを貼って興味関心を持ち、たくさん描いてきたことがわかる内容だと嬉しいです。

住居、つまり固定費をいくらにするか、といった点で結構変わりますが、ちゃんとしたアパートに住んで1日3食しっかり栄養あるものを食べて、と想定するとおおよそ30万円前後あたりでしょうか。「割と高め」とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、社会保険等完備の雇用の給料ではなく委託の報酬なので、払わなければならないものが多くなります。フリーランスは圧倒的な自由であるがゆえに、その対価のひとつとして、支払わなければならないものが多くなることはご認識・ご覚悟の上で臨まれたほうがよいと思います。

勝手に名を挙げさせていただきますが、「jbstyle.」で検索をお願いします。彼はフリーランスとして独立してから17年間イラスト制作一本で活動を続け、昨年からはイラストを描く合間を縫ってウェブトゥーンにも挑戦され、常時最前線で闘っています。「独特な絵柄」が「クライアントの求めるイラスト」と必ずしもイコールで結ばれない、とご認識されているからこそこちらのご質問になったのかと思いますので、私が聖書としている漫画『ハイキュー!!』41巻から言葉を引用させていただきます。

「我々は求めない。でも彼らには関係ない。確固たる実力で我々に選ばせにやってくる」。


選んでもらうため、考えを練り、行動を重ねていってください。


最終的には、ゲーム開発やイラスト制作を補助してくれるツールになるのかなと思います。もちろん、さらにAIが進化を続け、人間と同じように魂の入ったイラストを描く時代が来るかもしれません。どうあがいても、イラストレーターという職業がなくなる日もいずれ来るかもしれません。しかし、機関車や馬車の出現が飛脚や人力車を倒し、古い歌から借りると「ビデオがラジオスターを倒した」ように、どんな仕事でも未来永劫が保証されているものはありません。昔は本を燃やせばどうにかなりましたが、テクノロジーの発達した今では、その進歩をなかったことにはできません。必要以上に怯えず、近くのひとの信頼に応えるべく働くのが大事なのではないでしょうか。

もちろん、ミリアッシュとしては、イラストレーターさんがより多くのイラスト制作をまっとうできるよう全力を尽くして参る所存です。

 

Q2、Q5と同じく画力です。人気のゲームタイトルのイラストをケーススタディとして研究できている内容だとなお良いかもしれません。「もし『パズル&ドラゴンズ』の依頼が自分に来たとしたらここを意識して描く」といったものです。就職活動でもそうですが、見るひとに「きっちり調べている」と思ってもらえるよう工夫しましょう。

まずは量なので、たくさん描かないことには始まらないかと思います。先日ご縁があってスタジオジブリの凄腕アニメーターさんとお食事をご一緒したのですが、その際に「記憶模写」をよくされていると仰っていました。模写をする際に、その対象を常に観察できる状態にしておくのではなく、ある程度観察をしたのち思い出しながら描くという方法です。そうすると、「描けない」ことで、描くためになにを観察して覚えておく必要があるかが磨かれていくのだそうです。ひとつの参考になればと思います。

Q8と同じです。コンピューターが発達し、3Dを作るクリエイターの仕事が新しく生まれ、今やゲームにとって必要不可欠なものとなったように、AIイラストを高次元に活用できるひともまた、新たな職種へと繋がっていくのかなと思います。

Q4と同じく、ゲームクリエイターブランドはさらに強化してかねばと考えています。最近目にした言葉に印象的なものがあって、元V6の岡田准一さんが「ビジネスは闘いではなく助け合い」と仰っていました。深く頷きました。すべてのひとを助けることは難しいけれど、できるだけ多くのひとと助け合い、それをビジネスとして働いていきたいです。

 

 

イラストレーターさんへご依頼する場合で考えますと、クライアントが求めているクオリティかどうか、という前提にはなりますが、コミュニケーションがしっかり取れる方と弊社はお取引をしたいと考えております。圧倒的なパフォーマンスがあればやりとりに難があっても問題ない、とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、それは本当に例外中の例外で、実際には人間同士が仕事をする以上、だれかを不快にさせる言動をする方と一緒に働きたいひとはいません。他人の思いを無下にしない生き方を心がけましょう。

Q2、Q5、Q9と同じく、画力です。WebサイトやSNSを覗けば、たくさんの方のポートフォリオがあります。その力量の差に苦しさを覚える時もあるかもしれませんが、他者と比較して、その良いところを自らのものとすることはとても重要だと思います。周囲を見ずに自分と向き合わずして、「これこそが私のオリジナリティ」と言っているうちは、クリエイターとしてまだまだ未熟ではないでしょうか。

Q10と同じです。まずは何よりも量だと思います。私のノートPCには漫画『ドラえもん』のステッカーが貼ってあり、そこで「ああ!!ぼくはどうすればいいのだ。」と嘆くのび太くんに対し、ドラえもんが「なやんでるひまに、ひとつでもやりなよ。」と返しています。量とは、まさにこのことです。

おいしい食事を食べたり、たくさん寝たり、人間には快楽を感じることが多くありますが、そのうちのひとつに「尊敬しているひとに実力を認められたこと」があります。侍が撃剣をしているときに鍔迫り合いとなって「おぬし、やるな…!」と強敵に言われるような。今ご一緒させてもらっているサイバーコネクトツーさんは300名の会社で、ナンバーナインさんは80名の会社で、3名しかいない弊社がそこに混ぜてもらえているというのは、なにかしらの価値、つまり実力を認めてもらっているからだと思います。

今日のここが、まさに「仕事していてよかった!」と思える場のひとつです。

 

以上となります。

これまでに比べ、AIイラストへの質問が増えてきている印象でした。「不安です」や「好きです」といった賛否でなく「どう思いますか?」という内容から、漠然と気になっていらっしゃるのかなあと思います。もしかしたら未来への不安を払拭してほしいのかもしれませんが、私にはそんな力はなく、かろうじてお伝えできるとしたら、「憂うよりも学び考え、そして行動することが大事なのではないか」ということです。長くなりましたが、学生の皆様にとってためになる知恵や言葉が少しでもあることを祈っています。

お読みくださりありがとうございました。