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東京の専門学校で回答した「イラスト」に関する 9 の質問

2023年7月21日(金)に日本工学院専門学校蒲田校を訪ね「イラスト制作」のビジネスに関する講演をさせていただきました。そのなかで学生の皆さんからいただいた質問に対する回答を、できるだけその時の熱意をこめて改めてこちらに掲載させていただきます。

2023年8月24日

記事に興味を持ってくださりありがとうございます。

東京都府中のイラスト・ゲームイラスト制作会社ミリアッシュの代表をしている竹谷彰人(たけやあきと)と申します。

去る7月21日(金)に、日本工学院専門学校蒲田校様にて講演をして参りました。キャラクターデザイン等のイラスト制作に興味関心を持つ学生の皆様を対象に、お金の話を含めイラスト業界の市場ひいてはゲーム業界の実態をお話しする内容です。

この記事では、講演後半の質疑応答部分をなるべく当時の熱量を再現しながら、文章へまとめている現時点での考えも追加して書いております。  

 

種々ありますが、その立ち姿や衣装デザインを見るだけで背後にある歴史や文化を感じ取れるような、イラストを通じて世界観を感じられるものでしょうか。また、「好きという想いがあまりに強いがゆえここまで詰め込んで描いた」という密度のイラストも、その描いたひとの自分らしさが溢れていて好きです。 

 

イラストの価値、は定義が難しいものかと思いますが、商業的なイラストか、ファンアート的なイラストかに大別すると、前者ならクライアントの要望に応えられているかどうか、後者なら流行のコンテンツや描き方を追えているかどうか、でしょうか。とはいえ、どちらも普遍的なものとは言い難く、いつか吹くだろう追い風のために自分の信じるやり方を貫くことも大切だと思います。

 

弊社の場合はクライアントワークが業務の大半となるので、人気のあるゲームやアニメ等の分析・調査・ケーススタディができているとわかるような、具体的には「自分に仕事を頼んでくれたらこいう納品物ができるよ!」といったイラストだととても嬉しいです。

また、画力がなくとも商業に携われている方をお見かけした経験があまりないのですが、絵柄や個性を見初められてというのは稀でなくあるでしょうし、極端な話では「決裁権を持つひとと仲が良いから」という理由も充分あるかなと思います。メリットやデメリットを較べた理性的な勘案はビジネスでは当然ですが、往々にしてひとは最後の判断を感情で下しますし、それが人間の愛すべき部分でもあります。

仕事に繋がる動きがしたいのなら、まずは身近なひとを大切にするのが、遠回りのようでいて確実な近道かなと思います。

 

結論から言いますと、遠くから聞こえる動物の鳴き声と同じく、どうも思いません。イラストにかぎらず、なにをしていても変なことを言ってくるひとはいます。歌にあるように「闘うきみの唄を闘わない奴等が笑うだろう」です。なにもする気がないひとは、なにかをするひとが気になって仕方がないのでしょう。親しい友人がそういうことを言っているのを見聞きしたら即座に縁を切りますが、見知らぬ人がそうしていたなら「相手にしない」の一択かなと思います。

荒らしは無視。荒らしに反応するのも荒らしと同等の行為。

これはインターネット老人会の古きから連綿と語り継がれてきた珠玉の言葉です。個人的には、私は私を大切にしてくださる方々を大切に想うことで精いっぱいなので、だれかを大切にしない人々に割く時間が一寸もありません。

義憤や正義感に駆られる気持ちはすごいわかります。私も心ない言動を取っているひとを見て急激にムカッ腹が立つ時もあります。しかし、そういう時こそ辛抱し、静かに耐え、無視しましょう。ドラえもんの『石ころぼうし』のように、どれだけ騒ごうがだれも気づかなければ存在していないことと一緒ですし、そういう扱いをされ続けると、いつの日かそのひとはいなくなります。

 

とにかく何よりも大切なことは模写です。一方で、よりかわいらしく、よりカッコよく描くことも非常に大事だと思います。「公式より公式」や「野生の公式」とハッシュタグが付くようなイメージです。

あとは、これは先日公開された映画『君たちはどう生きるか』でも原画として入られていた伝説的アニメーターの方が仰っていた方法ですが、観察を10分程度してから見ずに描くことで、自分がどこの部分を理解していないかがわかり、観察眼を鍛えることができるそうです。ひとつの参考になればと思います。

 

法の専門家ではないので違っていたら恐縮ですが、現状だとダメではありません。しかし、いくつか参考までに話をさせていただくと、まず生成AIに対する風向きがいま非常に良くないです。米国では、AI技術に対する不満が噴出しストライキが起こった結果、映画の宣伝で来日する予定だった俳優トム・クルーズが来れなくなるなど、生成AIに対する敵意がクリエイティブ業界で渦巻いています。そして米国でパンデミック的に広がるものは、良いことでも悪いことでも、遅かれ早かれ日本にも伝播するのではないかと思っています。

次に、感情的なものを抜きにすると、AIによって生成されたイラストを著作物とした際、当然ですがひとの手によって描かれたイラスト・著作物と同じく剽窃盗作(トレスないしパクリ)について考えなければなりません。そもそもAIは学習をする必要があり、その学習のベースにだれかの描いたイラストが用いられる以上、似通うリスクは一層高くなります。もちろん、そういうリスクのないAIイラストのサービスもいずれ出てくるか、もう出ているかもしれませんが。

さらに加えるなら、販売サービス側が許可しているかどうかも確認したほうがいいかと思います。

個人的には、イラストレーターの皆様に敬意を持ち、出汁にするような真似をせず、確固たる信念で勉強しAIイラストに向き合うなら、そして上記の問題をクリアできるのなら販売へと進んでよいかと思いますが、簡単に利益を得ようという腹積もりでしたら止めるべきです。昨今過熱気味に報道されている中古車販売会社の信じられないようなビジネスのやり方は対岸の火事でなく、利潤だけを歪に求めた悲しい人間の成れの果てです。

 

だれかに喜んでもらうことを考えているか、自分が喜べることを考えているか、でしょうか。

商業イラストは基本的にクライアントワークなので、クライアントが求めるものを、つまりイラストを商品として描くことが求められます。そしてクライアントは顧客へ売らなければならないので、サービスとして顧客に喜んでもらう必要があります。

一方、趣味イラストは文字通り趣味なので、自分の好きなものを存分に描くことがほとんどかと思います。

もちろん、自分が好きなイラストを同じように好きなひとはいるので、そういう方々に知られ、みんなに喜んでもらうイラストへとなっていくケースも多くありますし、趣味で描いていたイラストが人気のあまり商品となることもありますが、それぞれ発端が異なると考えています。

 

講義の時間内に収まらないくらいの質問ですが、端的に申すとRPGとホラーが特に好きです。

直近の履歴だと『ファイナルファンタジーXVI』をクリアし、『超探偵事件簿 レインコード』をクリアして、『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』をプレイしながら来たる『Starfield』の発売を心待ちにしています。毎日ゲームのことを考えて生きています。

 

著作権法違反は親告罪ですので、被害者の方が告訴しなければ罪にはなりません。

ひとつの大きな例として、コミックマーケット等へ出展し、とある版権ものの同人誌を売って生計を立てている方は枚挙に暇がありませんが、繊細なグレーゾーンの活動と言わざるを得ません。グッズであれ本であれ、本来であれば版権元(ライセンサー)に権利使用の許諾を取りに行き、然るべき契約書を締結し、売れた際にロイヤリティとして利益の一部を還元します。皆さんも、もし自分の顔写真が勝手に印刷されたキーホルダーが世界的に売れていたら、その売上を分けてほしいと思うはずです。弊社で展開しているゲームクリエイターブランドは、当然それぞれのゲームクリエイターさんと肖像権に関する契約書を締結しています。eスポーツの大会を開く際も、当然権利元のゲーム企業から使用許可をもらいます。第三者の持っている権利を拝借してお金を稼ぐ・売上を立てるということは、その実とても大変な契約の上に成り立っている商業的行為なのです。

一方で、そのグレーゾーンが業界に貢献しているケースも少なくありません。ゲームの実況プレイ動画は、最近はメーカーによって許諾の条件範囲が変わりますが、OKを出していないゲームの実況動画を配信している人々もいます。もちろんOKを出していない以上はNGなのですが、メーカーとしては黙殺している場合もあります。その動画の視聴者およびファンが、ゲームを買ってくれるかもしれないからです。

まとめると、とどのつまり、ひととしてまたは生き方として、どうお金を稼ぎたいかという話になります。そして願わくば、正々堂々、皆さんを愛してくれているひとたちに恥ずかしくないようなビジネスを生業にしてほしいなと身勝手ながら思います。

 

以上となります。

早いもので、専門学校・大学にてお答えしてきた「イラスト」の質問に対する回答文も、今回の分を合わせて100を超えました。質問に答えることで、自らの思考もやすりにかけられ、物事に対する捉え方の輪郭が少しずつくっきりと滑らかになってきたと感じています。

改めまして、質問をくださった学生の皆様に大きな感謝をお送りするとともに、そもそものきっかけをいただいたサイバーコネクトツー代表松山さんに心から厚謝致します。

お読みいただいた皆様にとって、わずかでも実りある内容となっていましたら望外の喜びです。貴重な時間をこの記事に割いてくださり本当にありがとうございました。