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【2017~2021年】設立から5年間の全売上データから見るイラスト・ゲームイラスト制作の概況と展望

イラスト・ゲームイラスト専門の制作会社ミリアッシュにおける過去5年間の売上データをジャンル別のグラフにして、それぞれ概況を書き記しました。

 

2022年2月8日、ミリアッシュは設立から5周年を迎えました。その折に、せっかくなら設立からこれまでの全データを集計・分析してみてはどうかと思い至ってのものとなります。

 

あくまでも一社の一例という範囲を出ない内容とはなりますが、イラスト業界に携わる方やイラスト制作にご興味を持っている皆様にとって何か良いものがありましたら嬉しい限りです。

2022年3月23日
  • さいしょに 

記事に興味を持ってくださりありがとうございます。イラスト・ゲームイラスト専門の制作会社ミリアッシュの代表をしている竹谷彰人(たけやあきと)と申します。

 去る2022年2月8日、弊社は設立から5周年が経過しました。3名で始まった小さな会社がずっと3名のまま続けられているのは、クライアントの皆様はもちろんのこと、ご協力いただくイラストレーターの皆様がいらっしゃるからこそです。ここに改めて御礼申し上げます。 

5年という短くも長い来し方を思う中で、どうせなら5年分の売上データを元にグラフ作成し、その分析ができれば、イラスト制作や稿料といった直接的ではない部分での貢献が生まれるのではないかと考えました。

お読みいただく皆様にとって、少しでも実りを残せる内容となっておりましたら幸いです。

 

  • 2021年のまとめ

まずは、昨年2021年のデータ単体から見ていければと思います。全体の売上を100%として、比率をグラフにしました。こういうかたちをツリーマップと言うそうです。カッコいい響きです。

 

 

 

萌え / 美麗(美少女イラスト)が全体の3割を占める結果となりました。次いで三面図(3Dモデルの展開図、衣装デザイン等)、IP(版権)(漫画・アニメをベースとしたゲームのイラスト)と続きます。

後述で、実際のイラストを添えつつ具体例を挙げていきますが、三面図のご依頼はIP(版権)のデザインが少なくなく、つまり大まかに申すに「かわいい女の子のイラスト・漫画やアニメをベースにしたデザイン」が2021年の7割程度とお考えください。

2021年2月24日にリリースされ、爆発的な人気コンテンツとなった『ウマ娘 プリティーダービー』然り、美少女イラストのパワーは依然として強い状況が続いています。竹谷はゴールドシップが好きです。

では、この5年間の推移はどうだったのか。

所感も踏まえつつ、全体の売上から見たシェア率の高い順に書いていければと思います。

※読みやすさを考慮し、クライアント名は敬称を略しております。あらかじめご了承ください。

 

  • 萌え / 美麗 イラスト

 

 

「萌え / 美麗」イラストに関しては、売上・シェア率ともに常に高水準をマークしています。先述しましたがいわゆる「かわいい女の子」の制作が多く、表情やポーズの変化もありセットでの制作料は全体的に高い印象です。 下記は、ミリアッシュの2022年寅年用の年賀状イラストとなります。イラストレーターの二反田こなさんにお描きいただきました。

 

 

こちらのイラストのように、背景もあり、描画内容に少女だけでなく白虎も入る、となると制作料は上がっていきます。一方で、背景のないキャラクターが立っているイラスト、通称「立ち絵」では、やや安くなる傾向があります。 

また、下記のように、ビネット(立体模型的に飾られたもの)風のイラストもあります。こちらはライフマップ社主催の「イラスト部・イラスト好きな高校生同士の交流の場」として生まれたイベント「すけぶ交流会」のキービジュアルです。実はタイのイラストレーターの方に描いていただいております。今後も、弊社にいただくご依頼のうち、多くは「萌え/美麗」イラストになるだろうと予測しています。

 

 

  • 三面図 イラスト(二面図・衣装・3D用デザイン)

 

 

全イラストジャンルの中で、売上・シェア率ともに最も上昇を見せたものとなりました。

三面図はキャラクターデザインのひとつではありますが、ゲームの内部データ的なものと言え、主に3Dモデル用の衣装デザインや武器・防具デザインの制作となります。制作料から見た場合、ひとつひとつはそれほど高価とはなりませんが、まとめていただくことが多く、したがって全体的に売上は伸びた結果となっています。

 

 

「萌え/美麗」イラストのようにきっちり最後まで仕上げるというよりは、デザインの細部が判る程度の描き込みとなることが多いです。具体例として、弊社でお受けしているタイトルにはセガ社の『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』があります。 2007年の夏、ニコニコ動画を口火として広がっていったVOCALOID初音ミクの人気と可能性は、それから15年が経つ2022年現在もなお、とどまるところを知りません。初めて『メルト』を聴いた時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。

 

 

スマートフォンで遊べるソーシャルゲームは、スマートフォンの性能の上昇に伴い増々そのゲームデザインは豊かなものとなっていきます。3Dのゲームは増えていき、その設計図となる三面図イラストのデザインは、より一層需要が高まっていくように思います。

 

  • IP(版権)イラスト

 

 

IPは直訳すると知的財産となりますが、いわゆる漫画やアニメといったコンテンツを広く指しているとお考えいただければと思います。「IP(版権)」 イラストも、売上・シェア率ともに高い状況が続いています。ジャンルの性質上、既存のキャラクターデザインに「似せて・寄せて」描くため、特殊な技量が求められる一方、独創性や創造性といった作家性に封をして制作することとなります。そのため、弊社からイラストレーターさんへご依頼する際は、失礼のないよう最大限の礼儀と敬意に則りご連絡差し上げています。

制作料としては、「萌え/美麗」と同様に密度の高い全身像や背景込みのイラストとなるため、高くなることがほとんどです。弊社でお受けしているタイトルには、一例としてブシロード社の『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』があります。 生粋のラブライバーである弊社取締役の寺井友志(てらいともゆき)が、魂とプライドを懸けて日々制作しています。

 

 

Netflix等の動画系サブスクリプションサービスの止まらない隆盛、エンタメ企業各社のウェブトゥーンに対する興味関心ないし投資を見ると、今後IP(版権)の絶対数はさらに増えていくことが予想されます。それに伴い、メディアミックスとして展開されていくゲームも多くなっていき、付随してIP(版権)イラストの需要も増していく可能性が高いです。

 

  • 乙女系イラスト 

 

 

美少女ゲームが「男性が女性に恋する」ベクトルなら、乙女系ゲーム(女性向け)はその逆で、「女性が男性に恋する」ものを指します。また、厳密に申すと異なるのですが、弊社では管理上の都合でTL(ティーンズラブ)やBL(ボーイズラブ)も乙女系ジャンルとして計上しています。

 

 

IP(版権)イラストと同じく既存のキャラクターデザインに合わせた制作となることが多く、したがって「似せて、寄せて」描く高い技量が必要となります。弊社でお受けしているタイトルのひとつを例に挙げると、カラット社の『ニジカレ』があります。 

 

 

三面図デザインと近しく、乙女系イラストのご依頼も全体的に増えてきています。古くは『PlayStation Portable(PSP)』や『PlayStationVita(PS Vita)』でのタイトルが多い印象でしたが、性能の上がったスマートフォンが「携帯ゲーム機」の役割を果たしたことで、女性に人気のコンテンツが生まれやすく、その市場規模は広がっていくように思います。

 

  • 背景イラスト 

 

 

 おしなべてずっと需要のあるジャンルであり、今後もその状況が続く見込みです。コンテンツの品格を保っているのはキャラクターではなく背景美術、という話もあるほどで、ソーシャルゲームの開発フェーズではもちろん運営フェーズにおいても常に必要不可欠なイラストとなります。挙例させていただくと、マーベラス社の『一騎当千エクストラバースト』は、弊社で長いことお受けさせていただいているタイトルとなります。

 

 

また、弊社の特色のひとつとして、海外(英語圏・タイ語圏)のイラストレーターさんとも協力関係を築かせていただいているのですが、主に背景イラストでお世話になることが多いです(もちろん、国内のイラストレーターさんにもたくさん背景イラストをお描きいただいています)。

 

 

  • デフォルメイラスト 

 

 

ミニキャラやチビキャラ、SDキャラとも呼ばれている、2~4頭身ほどにデフォルメされたイラストです。必然的に描画要素は少なくなり、制作料も低めとはなりますが、その分ご依頼のある際はたくさんいただけることが多いです。グラフの変動は、需要というよりはそのタイミングによるものだとお考えいただければと思います。

弊社では、ほかのイラスト制作と同様クライアンワークとしてお受けすることもありながら、企業協賛(スポンサーシップ)の一環として制作させていただくこともあります。

下記は、ルーマニアのプロサッカークラブ「ACSプログレスル・エゼリシュ」のマスコットキャラクターとして企画プロデュースさせていただいたイラストとなります。日本の企業が海外サッカークラブのマスコットキャラクターを手掛けるのは史上初の事例となり、個人としても法人としてもとても思い入れのあるイラストです。

 

 

また、千葉県白井市にあるパン屋「ベーカリーハイジ」のマスコットキャラクターも制作させていただきました。それぞれお店を代表するパンであるクレセントと塩バターロールをキャラクター化し、あたたかさや優しさのあるイラストを企画プロデュースさせていただきました。弊社はクライアント様や作家の皆様へ向けたお中元ないしお歳暮といった季節のご挨拶にベーカリーハイジのパンのセットを贈呈させていただいているのですが、そのおいしさも相まってかたくさんお喜びの声を頂戴しております。いにしえのメソポタミア文明から人々の生活にあり続けたパンは、いつの世も人々を笑顔にしてくれます。

 

 

  • アイテムイラスト

 

 

先述のデフォルメイラストと近しく、制作料は低めですがご相談いただく際はボリュームがあるジャンルとなります。ソーシャル(スマートフォンでプレイする)ゲームやコンシューマ(ゲーム機でプレイする)ゲームはもとより、トレーディングカードゲームでのご相談もあります。

 

 

アイテムとひとつに言っても、上記のような密度の高い描き込みのイラストもあれば、複数の平行線を描くことで陰影を表現するハッチングのようなイラストもあったり、さらには魔法の演出だけを描写するイラストもあったりと、求められるテイストはかなり細分化されています。

 

  • 厚塗りイラスト

 

 

昔から人々に愛されているトレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』のように、美麗イラストよりもさらに塗り込み、油絵のような質感を持ったイラストを「厚塗り」と表現しています。すべてのジャンルの中で、数字と肌感ともに「減少した」と記せるのは厚塗りイラストとなります。以前は海外展開を視野に入れたゲームにてご相談をいただくことが多かったのですが、IP(版権)ゲームの需要が高まっていくにつれ、海外向けも厚塗りイラストからIP(版権)イラストへシフトしたかたちです。

 

 

 そのような状況ではあるのですが、戦国時代や三国志をベースにしたシミュレーションゲーム等でのご依頼は依然としてあり、またその描画密度から制作料は最高峰となります。背景イラスト然り、海外のイラストレーターの方が特に得意とされており、弊社では実のところ、甲冑に身を包んだ戦国武将をタイのイラストレーターさんに描いてもらったりしています。

 

  • 漫画

 

 

弊社はイラスト・ゲームイラストに特化した制作会社であり、漫画のご依頼は基本的にお受けしておりません。イラストのアートディレクションこそ専業としていますが、ネーム(漫画のコマ割やセリフ等を大まかに描いたもの)の良し悪しについては専門外となるためです。

しかし一方で、ゲームやアプリのキャラクターを紹介するための四コマ漫画や1ページ程度の簡単な漫画、つまりネームを必要としない制作工程のものはお受けすることがあります。メディア工房社の通話アプリ『きゃらデン』では、キービジュアルやキャラクターイラストのご依頼に付随するかたちで、キャラクター紹介用の漫画を制作させていただきました。

 

 

また、昨今漫画業界ではウェブトゥーンが台風のように発達してきており、弊社へご相談いただくケースもございます。通常の漫画と比較し、ウェブトゥーンはイラストに近いカラフルな描画であり、線画・着彩といった工程での制作がメインとなります。とは申しながら、弊社はどこまでもイラスト・ゲームイラスト制作会社のため、あまり多くをお受けする予定はありません。

 

  • R18イラスト 

 

 

弊社では、いただくご案件を好き嫌いすることなく、すべて得意分野として制作を進めさせていただいているのですが、R18(アダルトゲーム)イラストの受注は少ない状況です。この一因として、お問い合わせの件数自体は少なくないものの、最終的に条件面で折り合いがつかない、という場合が挙げられます。制作内容としては差分(同じキャラクターイラストのうち、表情やポーズ、衣服が部分的に変更描写されたイラスト)が多く、1セットの単価としては高いことがほとんどなのですが、スケジュール面や制作工程等の内容から拝辞させていただくことが数度ございました。

弊社ではR18イラストの制作も随時お受けしておりますため、ぜひご遠慮なくご相談くださいますと幸いです。

 

  •  アートディレクションサポート 

 

 

弊社はイラスト制作会社の中では後発の部類に入り、強大な先輩の同業企業様は枚挙に暇がないほどなのですが、変に火花を散らしたりせず、横の繋がりの大切さを意識して日々活動しております。この5年間の売上のうち、同業企業様からご相談いただいたタイトルは決して小さくない額に昇り、クライアント様から直接受注しながら、一方で同業企業様から間接的に同じゲームのイラスト制作をお受けすることも幾度とあります。

そうして関係を培っていく中で発展したご依頼のひとつが、ラフ(デザイン・構図がざっくり判る程度のイラスト)の赤入れを始めとする、アートディレクションそのもののご相談です。

少々カッコつけて申すと「イラスト制作会社から頼りにされるイラスト制作会社ミリアッシュ」。そう思ってくだされば嬉しいです。

 

  • おわりに

まとめると、「かわいい女の子」のイラストと、既存のキャラクターデザインに「似せて・寄せて」描くイラストが、この5年間ずっとシェア率は高く推移していました。また、3Dモデルのベースとなる三面図のデザインと乙女系イラストが飛躍的に増えてきております。

イラストそのものの需要は今後どうなるか、という点については、なんとなく「減っていく」というご意見の方が多いように感じていますが、弊社では逆に「増えていく」と考えております。

もう少し言うなら、「増やしていく」のが弊社のようなイラスト制作会社の存在理由であり、人間が字を書くよりも先に絵を描くように、「描きたい、描かれたものを見たい」という欲は根源的で原始的で、ゆえに強靭であると信じています。

ゲームの中にイラストは溢れていますが、ひと度ゲームを離れると、イラストは世界にとってまだまだ不充分です。もっとイラストで満たしていきたい。そう強く思っています。

ただ、情熱だけでは、力不足です。情理という言葉の通り、情だけでなく理がなければなりません。その理をわずかながらでも補填すべく、弊社の数字をこの度拾い上げ、こうして公開させていただきました。

さらに5年後には、10年間分をまとめた記事を書きます。その未来をここに誓いつつ、その誓約を文章の結びとさせてください。

お読みくださり、誠にありがとうございました。