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【2020年度総括】実案件データのグラフから見るイラスト・ゲームイラスト制作の動向

イラスト・ゲームイラスト専門の制作会社ミリアッシュの2020年の受注データから、イラスト制作のご依頼をジャンル別に円グラフにして、それぞれ概況を書き記しました。

 

ひとことにイラスト制作会社と申しても多種多様な企業様がおり、一例の範囲を出ない内容とはなりますが、イラスト業界に携わる方やご興味を持っている方々にとって何か良いものがあるやもと思い、この度公開させていただきました。

2021年2月26日

記事に興味を持ってくださりありがとうございます。イラスト・ゲームイラスト専門の制作会社ミリアッシュの代表をしている竹谷彰人(たけやあきと)と申します。

12月の決算に向けて2020年のデータをせっせと固めておりましたところ、せっかくならグラフにして公開しようと思い立ち今回の内容へと至りました。

イラスト制作に携わる、またご興味を持っているすべての皆様にとって、何かしら実のある記事となっていたら嬉しい限りです。

※あくまでも株式会社ミリアッシュのデータによるもので、イラスト制作市場全体のものではございません。あらかじめご了承くださいませ。なお、母数となる昨年のイラスト制作点数は2,000点です。

2020年、弊社で最もご依頼が多かったのは萌え / 美麗イラストのご案件でした。

グリー社ディー・エヌ・エー社といったソーシャルゲームの黎明期からガンホー・オンライン・エンターテインメント社の『パズル&ドラゴンズ』等のブーム、そしてCygames社の『グランブルーファンタジー』と現在に至るまで、美少女ゲームのようなグラデーションのきいたイラスト、また背景をしっかり描き込みエフェクトをふんだんに用いた一枚絵のイラストは、カードゲームにおいて欠かせない大きな要素です。

弊社でお受けしているイラスト制作ご案件のうち、実に25.1%を占める結果となりました。

一時期のブームに比較して、やや物量自体は減っている印象ですが、肌感覚としては本来の需要に落ち着いたように感じています。

一方で、売上の比率は下記のようになります。

件数の25.1%に対し売上が35.2%と大きいのは、萌え / 美麗イラストが用いられるゲームには往々にして進化・覚醒といったレベルアップ・クラスチェンジのシステムが組み込まれており、基本のイラストに装飾が追加されたりキャラクターのポーズが変わったり、場合によっては別構図での描き下ろしがあったりします(ゲームイラスト業界ではおおよそ差分と呼称されています)。

つまりセットでのご依頼が多く、したがって制作料は大きくなる傾向にあります。

お受けしているご依頼のうち、弊社内でもやや意外だったのですが、次点で多数を占めていたのは三面図の制作でした。

20.2%で、約5点に1点は三面図を制作していることになります。

三面図は、ゲームにおけるキャラクターデザインの一環とも言えるデザインの制作で、新規キャラクター用の衣装デザイン、3Dモデル用の下絵としてのデザイン等、その内容は多岐に渡ります。

中でも、弊社で特にお受けしているのは衣装デザインとなります。アイドルやバンドといった音楽グループの新曲PV用衣装や、新たなステージ衣装がメインの制作内容です。

ご案件により求められる内容は十人十色で、たとえば、

「まだ垢抜けていない女子高生の私服」

「バーチャル世界のアンドロイド歌姫のステージ衣装」

「ヒップホップ系グループ全員の衣装」

といったご依頼が来ます。

また、ほかには剣や盾などの武器デザインもあります。こちらもその世界観や設定により、制作の幅は大きく変動していきます。

売上で見ると、13.5%と少し比率は下がっています。

こちらは、三面図のご依頼は「最終的に絵を塗り込み完成させる」という段階まで工程が進むことが珍しく、ラフイラストの状態にてご納品となることが多いためとなります。

その分作業工程が短くなり、価格は比例していきます。

次に多いご依頼は、IP(版権)イラスト制作でした。

弊社でお受けしているご案件ですと、KLab社ブシロード社の『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』のような、軸となる既存のキャラクターデザインがあり、そちらに絵柄を似せて(寄せて)制作するものを指しています。

昨今のゲームはゲームのみならず漫画やアニメと一緒に展開、つまりメディアミックスされることが少なくなく、その頻度は年々高まりを見せている印象があります。

すでにあるデザインに則る、という制作は、ある意味でイラストレーターさんの独自性・クリエイティブそのものを消してしまうおそれがあるため、弊社では重々その点を留意した上でご依頼しています。

しかし別の側面では「好きなコンテンツに携われる」という観点も強くありますため、消極的にならず多くお受けし、イラストレーターさんへご相談させていただいている状況です。

他方、売上は18.9%と件数に対してやや大きいです。こちらもゲームという性質上、萌え / 美麗イラストと同じく進化・覚醒といった差分の要素がつくことが多々あり、ご依頼が複数点を合わせたセット構成を取るためです。

弊社で定期的に制作しているご案件のひとつに、乙女系(女性向け)ゲームのイラストがあります。昨年の比率は9.6%で、ほぼ1割でした。

アイディアファクトリー社のブランド「オトメイト」やサイバード社の「イケメンシリーズ」のように、主人公の女性キャラクターが、眉目秀麗な男性たちと恋愛するゲームを指しています。弊社は男性3名の会社なのですが、ありがたいことに設立当初より様々な乙女ゲームのイラスト制作に入らせていただいています。

また、先に述べたIP(版権)イラストも同様なのですが、乙女ゲームはその多くにおいて元となるキャラクターデザインが決まっており、そちらに似せて制作する、という工程を踏むことが多いです。そのためIP(版権)イラストを含めた実制作において、クオリティ保持の観点からラフ段階での赤入れや最終的なブラッシュアップをさせていただくことがあり、その際弊社ではチャットツール等でイラストレーターさんと同期的に連絡を取りつつ、アートディレクションのサポートとして制作体制に参加していただいています。

売上に関しては、乙女系(女性向け)イラストは14.2%と、件数の比率よりも大きくなっています。

これは先ほどの萌え / 美麗イラストやIP(版権)イラストと、キャラクターの構成が近似しているためです。

基本のイラストがあり、そこに表情や仕草を変えたイラスト、つまり差分が加わり、最後にイベント用のイラスト(スチル)という組み立てになることが多く、まとまったセットでのご依頼がほとんどです。

弊社でお付き合いさせていただいているイラストレーターさんのうち、およそ4分の1が海外(英語圏・タイ語圏)の方々です。基本的にどのご案件に対しても国内外を問わず色々なイラストレーターさんにお力添えいただいているのですが、多少なりとも環境が左右するのか、とりわけ海外のイラストレーターさんに制作していただいているのが背景イラストです。

背景イラストは全体の7.1%でした。ほぼすべてのゲームに必須の素材であり、ロンチ(新規)タイトルではもちろんのこと、運営フェーズ、つまり発売・配信後の段階においても、クリスマスやバレンタインデーといったシーズンイベント等でご相談をいただきます。

背景の売上は6.9%で、件数とほぼイコールとなっています。こちらもキャラクターイラストと同じく差分があり、たとえば夕方や夜、曇りや雨、また春夏秋冬と変化の程度は強く、その分セットでのご案件となるためです。

また、背景イラストとは目的が変わりますが、世界や風景を描写するイラストにコンセプトアートがあります。こちらはゲームを作り込む前の世界観や設定を表現するためのイラストで、通常の背景のように最後まで仕上げないケースもあります。コンセプトアートはクライアント様と綿密にコミュニケーションを取りつつ固めていき、数種類のパターンを制作することもあるため、必然的に制作料は高くなる向きがあります。

LINE社の提供するコミュニケーションアプリ「LINE」のスタンプのように、ゲームアプリ内でユーザーが使用するスタンプの制作もあります。

件数としては6.7%と小さくない数字に見えるのですが、スタンプはひとつひとつの制作工程が平均して短く、また「おはよう」「こんにちは」といった挨拶に始まりコミュニケーションの数だけ制作があるため、件数そのものは大きな膨らみを見せます。

そして制作工程が短い、換言するなら線画や着色がシンプルという事由により、制作料は比例して小さくなる傾向があります。

0.6%なのでかなり少ない、とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のところスタンプイラストの制作は数十点のボリュームでご発注いただくことが常のため、バランスすると最終的にはまとまった制作料をいただくことが多いです。

キャラクターイラストとはまた別に、ゲーム内でキャラクターたちに強化や変化を与えてくれる武器、防具、アクセサリー、そして道具等のアイテムイラストのご依頼もあります。

キャラクターイラスト等に付随してご依頼いただくことがほとんどで、件数で見ても4.0%と少数です。しかし、2019年の弊社受注データを撫でたところかなりの件数がありました。そしてこの差異は、ご案件のフェーズによるものです。たとえば、これから配信となるゲームの場合、アイテムイラストのご依頼がたくさんありますが、他方で配信後の運営フェーズになりますと、折を見てアイテムを追加していく、という状況になります。一昨年を顧みるに、アイテムイラストをたくさん制作させていただいた新規タイトルがあり、ゆえにある程度制作ボリュームに波のあるジャンルと言えそうです。

売上は1.5%と件数より低めに着地しています。先述のスタンプイラストに類似した内容ではありますが、アイテムイラストは課金の大事な要素であるキャラクターイラストと比較して付随的な制作の色が濃く、それに伴い制作料も抑えめとなります。

デフォルメイラストは、弊社では2から3頭身程度の可愛らしいキャラクター全般を指し、平均してスタンプイラストより描き込みの多いイラストとなります。グリー社のロングランタイトルである『探検ドリランド』をイメージしていただければと思います。頭身の高い既存のキャラクターにユーザーから一層強い愛着を持ってもらうため、ゲーム内だけでなくTwitter等のSNSで活用されるケースや、キャラクターの誕生日イラストとして、デフォルメイラストをご依頼いただくこともあります。

件数の3.7%に対し、売上は0.7%でした。スタンプイラストやアイテムイラストと同様、頭身が低いことで描き込み自体が少なくなり、したがって制作料も低くなる傾向があります。

古くはWizards of the Coast社の『マジック・ザ・ギャザリング』やコーエーテクモゲームス社の『信長の野望』シリーズ、『三国志』シリーズに代表されるような、油絵のように密度の濃い塗り方で制作されるイラストを、弊社では厚塗りイラストと呼び、主に戦国武将やモンスター・クリーチャー等のイラストを制作しております。

2015年前後のソーシャルゲームバブルの頃に較べると、美麗 / 萌えイラストと等しくご案件の比率はいささか下がってきている観がありますが、それでも定量ご依頼のある人気のジャンルに変わりはありません。

件数の2.6%に対し、売上4.0%と高めなのは、厚塗りイラスト自体の制作工数がほかのジャンルよりもはるかに多いためです。基本的に背景も満遍なく描画するセットでのご依頼となり、かつ写実的な塗り込みが求められます。

同業他社さんと比較して珍しい内容ではないかと思いますが、弊社ではアートディレクション、つまりデッサン・パースの審美眼や赤入れによるイラストの調整、最後のブラッシュアップ等にサポートとして入らせていただくこともございます。

件数・売上ともに大きくはないのですが、同業他社の方々からアートディレクションのご相談をいただくことは、弊社の実力を示すひとつの証と言えるのではないかと考えております。

漫画とは申しても、漫画雑誌のような数十ページに渡るようなものではなく、ゲームのローディング(データ読み込み)中の待機画面や、デフォルメイラスト同様にTwitter等SNSでのPRとして数ページ制作させていただく4コマ漫画のようなものが主となります。

弊社はイラスト・ゲームイラスト制作会社であり、ネームといった漫画に必要な構成にディレクション能力を発揮することは専門の外側となりますので、漫画制作を大々的に謳うことはしておりません。

そのため、あくまでゲームやアプリイラストの副次的なものとして、すでにクライアント様がプロット(ストーリーの概要)をお決めいただいている場合に限り、漫画の制作もお受けするようにしております。

以上の事柄から、件数と売上も必然的に小さくなります。また、カラーでのご依頼もありますが、漫画はモノクロでのご相談が相対的に多く、それに伴い着色工程が減少し、制作料もやや抑えめとなります。

前項に繰り返しとなりますが、弊社はイラスト・ゲームイラスト専門の制作会社です。そのため、いわゆる男性向けか女性向けかに問わず、弊社ではEXNOA社の提供されるゲームプラットフォーム「FANZA GAMES」のようなR18(アダルト)イラストのご案件もお受けしております。

件数の0.7%よりも売上が1.4%と上昇しているのは、R18のご案件は表情や衣装といった差分やイベントシーンが非常に多いことによります。さらには同じゲームでも全年齢版(非R18)と併せたご依頼もあるので、ひとりひとりのキャラクターに一層枝分かれした変化が与えられ、必要なイラスト点数は細分化され増えていきます。

イラスト制作を全部で12のジャンルに分け、書き進めて参りましたがいかがでしたでしょうか。

自社のデータながらも改めて可視化をすると気づくことも多々あり、蓄積されていくデータを放っておかず、きちんと料理することの大切さを再度認識した次第です。

イラスト制作に携わっている、またご関心を抱かれているすべての皆様にとって、何かしら有益な情報となっていましたら嬉しい限りです。

2021年のデータが揃った際には、またグラフにまとめてみようと思います。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。