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大阪の専門学校で回答した「イラスト」に関する25の質問

2022年11月24日(木)から25日(金)の間で、計3校を訪れエンタメ業界(ゲーム・漫画・イラスト)の講義をさせていただきました。その中で、学生の皆さんからいただいた質問に対する回答を、改めてこちらに掲載させていただきます。

2022年12月23日

記事に興味を持ってくださりありがとうございます。

東京都府中のイラスト・ゲームイラスト制作会社ミリアッシュの代表をしている竹谷彰人(たけやあきと)と申します。

去る11月24日から25日にかけ、大阪の専門学校をまわり講義をして参りました。ゲーム開発会社サイバーコネクトツー松山洋社長と、デジタルコミックエージェンシーのナンバーナイン小林琢磨社長と一緒に、それぞれゲーム・漫画(ウェブトゥーン)・イラストの切り口で話し、エンタメ業界を包括的に学んでもらおうといった3社合同での企画、その名も「学生ミライ会議」です。

9月に福岡で第1回となる学生ミライ会議を開き、今回は第2回となります。前回の質疑応答全文はこちらよりお読みください

この記事では、計3校の学生の皆様よりいただいた質問に対する回答を、なるべく当時の熱量を再現しつつ、文章にまとめている現時点での考えを追加し書いております。近しい質問もありますが、それだけ若い世代の関心が強いことと捉え、まとめずに回答していきます。

 

 

画力は大前提として、イラスト制作会社の観点からとはなりますが、その時その時の流行をチェックして反映されていることと、ご自身の好きなものが見えることです。たとえば、ソニックのファンアートをたくさん描いているイラストレーターさんがいらっしゃったとして、ソニックのイラスト制作の相談が弊社に来たとしたら間違いなくそのイラストレーターさんにお声がけします。好きなコンテンツに携われる素晴らしさを、そのイラストレーターさんと分け合いたいと思うからです。

 

人類が生み出した発明のなかでも群を抜いて秀逸なものに「納期」があります。まずは締め切りや納期を設けて、「描かないと終わる」状況を作ってみるのもひとつの手ではないでしょうか。仕事全般に言えることですが、速くて雑なのも丁寧で遅いのも普通で、速くて丁寧だからプロなのだと思います。ちなみに「兵は拙速を尊ぶ」という言葉が割とビジネス用語として飛び交っていますが、「ゆっくりしっかりやるよりは多少雑でも速くやれ」といった意味合いで受け取るのは実は誤りだそうです。速くても拙かったら意味がないので、あえて言葉を作るなら巧速を意識して取り組みましょう。

 

プロジェクトにより千差万別ではあるのですが、ソーシャルゲームのキャラクターイラストに限ると、レアリティの低いイラストは写真撮影でポーズを取る体の正面的構図になり、反対にレアリティの高いものではひとつのシチュエーション内における行動を煽り(下から見た図)・俯瞰(上から見た図)で切り取ったイラストになることが多いかと思います。

 

言うは易しでなかなか実践が難しいのですが、できる限りすべてのことに興味関心を持とうと思っています。イラストは、ゲームイラストに限らずどの媒体・業界でも用いられるものなので、つまり色々な業界のことを知れば、イラストが届けられる範囲を広げられると考えています。大事なのは活かそうという心構えです。かの偉人マザー・テレサの言葉をざっくりかいつまむと、「考えは言葉になり、言葉は行動になり、行動は習慣になり、習慣は性格になり、性格は運命になる」というものがあります。まずは活かそうとする意志を持つことです。

 

イラスト制作の市場規模で少しお話したように、メディアミックスが当たり前となった今、IP(版権)イラストの需要は年々高まっています。たとえ『SPY×FAMILY』のゲームはなくとも、フォージャー家は『共闘ことばRPG コトダマン』や『白猫プロジェクト NEW WORLD'S』といったゲームにコラボとして出ているように、人気コンテンツのキャラクターに似せて描く能力はイラスト業界全体から求められていると言えます。また、スマートフォンが高機能になるにつれ、リッチな3Dゲームはもっと増えていきます。そのため、その3Dモデルを作る前段階でのキャラクターデザインや衣装デザインのスキルも強く望まれているかと思います。一方で、心技体という言葉がある通り、技は心と体があってようやく輝くものですので、そのふたつを鍛えることもゆめゆめ忘れてはなりません。

 

基本的にはそう変わらないかと思いますが、ゲーム会社に所属すれば当然その企業の開発するゲームイラストが仕事になります。イラスト制作会社に所属すれば、そこに依頼されるゲームタイトルそれぞれのイラストが仕事になります。少し話がそれますが、先日知り合ったアニメーターさんはある有名なアニメに携わりたくて某大手アニメ制作会社に入社したものの、全然自分の好きではない現場に配置となったことが苦痛でフリーランスになったそうです。好きなゲームを作っている開発会社で好きなゲームのグラフィックに貢献できるのは前者ですし、好嫌混ざる色々なゲームタイトルに携われるのは後者で、どちらに良し悪しが下る話でもありません。また、雇用なら社会保険が付いて定額のお給料をもらえるも拘束は多く、フリーランスは拘束こそ少ないですが社会保険は付かず報酬も変動的になりがちです。双方大変ですし、楽しいと思います。

 

「はじめに画力ありて」という前提にはなりますが、お人柄です。「ありがとう」と「ごめんなさい」を素直に言えるひとが好きです。うつろなプライドを守るために「自分のせいではない、私は悪くない」とアピールしたげな言動を取るひとが、年を重ねても、いや、自身と向き合わずに年を重ねていったからこそたくさんいます。私は自分ではない誰かのために「ありがとう」と「ごめんなさい」を言えるひとをカッコいいと思いますし、自分もそうありたいと思います。

 

話し合います。もう少し言うなら情理のふたつに分けて、感情としてどうか、ロジックとしてどうか、をそれぞれ吟味することが多いです。あとは、これは自身に対して心がけていることでもありますが、その意見は「合っている」という感覚から来るのか、あるいはただの固執からなのかを見極めることが大切だと考えています。意外と後者が少なくありません。

 

なくなる自信というものは、そもそも自信ではないのかなと思います。バブル経済のように、肥大化した自我が高騰しているだけというか。やや脱線すると、弊社のようなイラスト制作会社は、お受けした仕事の大半は実績としての公開が許可されません。ですので、Webサイトに掲載できているイラストは実績全体のほんのわずかで「本当はあれもこれも制作しているのです」と言いたい気持ちがあります。しかし、公開はできずとも、みんなが知るような有名なゲームタイトルの、制作難度の高いイラストをたくさん制作したという事実だけは残ります。だから、弊社はイラストなら何でも制作できます、とお会いする方々に胸を張って言えます。自信とは、そういうものではないでしょうか。

 

たくさん描くこと、まずは量です。なにを描いたらいいか、という点でしたら、流行しているコンテンツをケーススタディとして描くことでしょうか。憧れているイラストレーターさんのイラストを模写することも良いかと思います。

 

学生時代の自分へ言うとするなら、多くのひとに会ってほしいなと思います。30歳で会社を作ろうと思い立ち、かれこれ6年が経つのですが、ひとに会う度に自らの無知を今なお思い知らされます。小さな円のかたちを想像してください。円の面積は知識、円周は知らない領域との接線です。知れば知識は増え、円は大きくなります。すると円周は長くなり、知らないことははるかに増えていきます。若いうちに、知っていることを増やし、知らないことを増やしていってほしいと思います。

 

仕事として多いのはキャラクターなので、まずは人物をしっかり描けるようにとは思いますが、プロのイラストレーターを目指すのであれば、畢竟全部練習すべきではないでしょうか。好きなものがあるなら、まずはそれをたくさん描いてみるのも良いかと思います。

 

絞らない方かなと思います。先日ワールドカップで世界中が沸きましたが、プロのサッカー選手で「シュートだけする」という選手はいません。サッカーで食べていくためには勝つ必要があり、勝つためにはシュートだけではなくドリブル、パス、トラップといった技を習得し研ぎ澄ましていく必要があります。全部できる上で特化するのが、プロ中のプロではないでしょうか。

 

TOEICのように900点以上、といった明確なものが画力にはなく難しいところですが、基本的なデッサンやパースを習熟している必要はあります。ごくまれにアカデミックな技術を知らずして神がかりしたイラストを仕上げるイラストレーターさんもいますが、それは例外です。悪事がいずれ日の下に晒されるがごとく、基本的にひとは例外にはなれません。学びましょう。

 

主観的なものとなってしまい恐縮ですが、まずパッと見で「好きだなあ」と思えるイラストです。あとは、職業柄かもしれませんが、キャラクターイラストを拝見する時は必ず背景の有無とそのクオリティを見ます。背景イラストは別のイラストレーターさんへ頼む、というケースもなきにしもあらずですが、背景ありのキャラクターイラスト・スチルイラストは、背景イラストもセットでイラストレーターへご依頼するケースが多いためです。

 

制作開始から納品まで、というイラストの制作期間では、おおよそ1ヶ月前後です。イラストの描画時間で申すと、求められているイラストのクオリティや塗り方、またイラストレーターさんそれぞれで異なるのですが、平均すると10から20時間程度かと思います。ちなみに、弊社で懇意にさせていただいているイラストレーターさんは何でも描けて、それでいて筆も速いのですが、その方は背景ありの一般的な美少女キャラクターイラストを4時間で描かれました。量に裏付けされた質だなと思います。

 

CLIP STUDIO PAINT、Adobe Photoshopといった描画ツールは前提として、フリーランスのイラストレーターさんの場合では、必要に応じて進行管理や会計関連のツールも導入された方が良いかと思います。ちなみに弊社ではイラストのご納品後に「お支払通知書」というものをお送りしており、イラストレーターさんのご請求書を作る手間を削減しています。

 

来し方を思い返すと、だいたい2~3年くらいのスパンでやるべきこと・やりたいことの兆しが見えてきているなあと思います。

2017年に設立したばかりのころは、とにかくイラスト制作だけに集中していました。会社としての実績や信頼を作るため、そうせざるを得ませんでした。その3年後にはゲームクリエイターにもっと焦点を当てようとブランドを立ち上げ、その2年後にはゲームやイラストで教育に貢献するべくカリキュラム制作を始めています。

そのどれもが、かねて計画していたものではなくご縁から生じた仕事です。こういった仕事に取り組む度、もっと多くの方とお会いしたくなります。漫画『HUNTER×HUNTER』でジンの「大切なものは、ほしいものより先に来た」という言葉は、こういうことを意味するんだなと思います。なので、企業目標と言うと「ともだち100人できるかな」という感じでしょうか。弊社を気にかけてくださる企業が100社いらっしゃったら、よほどのことがない限り潰れないと思うので。あとは個人的な目標で申すと、もっと役員報酬を上げて副社長杉山と取締役寺井の家のローンを一刻も早く完済してもらうことです。

 

 

すでに売れているものに乗っかるか、売れているものを理解・分解・再構築することが近道ではないでしょうか。一方で、「自分の作ったものこそが売れる」という信念のもと突き進むのも、ひとつの要素かと思います。ディズニー社でさえ売れない映画を作りますし、驚愕の真実として、未来は誰にもわかりませんので。

 

Q01と同様ですが、画力です。繰り返しにはなりますが、流行しているコンテンツや画風を意識認識できていることと、自分の好きをバランス良く詰めこめていることです。

 

Q17と同じですが、付け加えるとメールやチャット、また会話で失礼のないよう受け答えができる等のビジネスマナーも大事だと思います。イラスト制作はビジネスです。あとは、人体は座り続けられるようには設計されていないので、文明の進歩に身体的進化が追いつくまではしっかりストレッチをして筋肉も衰えさせないように鍛えておきましょう。

 

「伝える」ではなく「伝わっている」か、というのはよく聞きますが、個人的には言葉遣いや文章構築といった言語能力を高めるべきだと思います。日本語が母国語のひと、という例でお話すると、生まれたときから日本語のシャワーを浴び、幼いころから拙いながらも話し続けていることで、日常での会話においては問題のないひとがほとんどです。そして国語の授業はおおよそ高校あたりで終わり、活用や部首や「いとおかし」は過去のものとなっていきますが、まだまだ言語は奥があります。ライターを名乗っているひとの記事がとても読めたものでないケースは枚挙に暇がなく、「ヤバい」の使いやすさに甘んじていたら「ヤバい」しか言えなくなります。誤字脱字を気にせずに読み手のストレスより自身のラクさを優先した結果、「伝える・伝わっている」以前の事態に陥っていることに気づいていないひとも多いです。

言葉は生き物で、変化を続けています。アップデートする言葉に合わせ、意識して学んでいくことが大事だと思います。ちなみに唯一完璧な言語は遠い昔に滅んだローマ帝国のラテン語だけだと言われています。言語ってヤバくないですか。

 

信念があるひと、だと思います。アベンジャーズと一緒で、信念があるから強く、強いから人目を引き、多くのひとから賞賛されるのではないでしょうか。

 

まだ生き残れているかわからないような若輩者ですが、月並みながら感謝を忘れないことかなと思います。大きな仕事を成したり多額のお金が入ると、なんだか自分が万能神のごとくに思えてきますが、仕事もお金も他者との関係のもとで得るものです。怪我や病、老いで、人間はできることができなくなっていくように作られています。不老不死でないのなら、感謝の心を忘れずに生きましょう。

 

ゲームクリエイターをグッズ化する事業や、イラストのカリキュラム制作をしています。というのは大人向けの話で、これはそろそろ断言してもよい気がしてきていますが、数あるゲームイラスト制作会社のなかで弊社メンバーは最もゲームをしていると感じています。働きはじめてからゲームをしなくなった、というのはよく聞きますが、仕事に尽力しつつゲームプレイの時間を捻出しているメンバーで構成されているのがミリアッシュです。最近まで普通のことだと感じていたのですが、ゲームをしっかりプレイしていることは実はほかではなかなかできない強みである、と思うようになりました。そのゲームへの愛を、弊社はイラスト制作へ注いでいます。

ほかには、よろしければWebサイトやnote、または私のTwitterをご覧ください。「イラストを頼むならミリアッシュに。ずっとそう思っていました」と仰ってくださる方は実感として増えてきており、今後もそう思ってもらえるように熱と誠で働いています。

 

以上となります。

前回の福岡巡りの質問で、学生の方からいただく質問はほぼすべて網羅したのではと思いましたが、私自身の考えも多かれ少なかれ変化している可能性もあるかと思い、せっかくなのでまた書かせていただいた次第です。

学生の皆様が、良い人生を歩むそのお手伝いが僅かでもできていることを、心から願っています。

お読みくださりありがとうございました。